AIエンジニアの探求

計算論的神経科学で博士号取得後、AIエンジニアとして活動中。LLMの活用や脳とAIの関係などについて記事を書きます。

人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか

を読んだ。内容としては、「生命の本質とはなにか」「意識とは何か」「それらの問題にどうやってアプローチできるか」などの問題を2人の研究者が対話を交えながら語っていくもの。

 

人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか

人間と機械のあいだ 心はどこにあるのか

 

 

 

 面白いのは、これらのめちゃくちゃ難しい問題に対して科学だけではない、一種芸術的なアプローチをとっていること(共著者の一人、池上氏は「総合科学」で攻めないといけないと語っている)。

 例えば石黒氏(ロボット研究)はアンドロイドを演劇に登場させて、人間との相互作用から何が生まれるかを実験しているし、池上さん(ALIFE)は見る人がそこに生命性を見出すようなインタラクションを作って展示したりしている。

 そしてその2人がタッグを組んで作った「機械人間オルタ」によって、生命性は「本物の人らしさ」ではないところに宿るのではないかという仮説を打ち出している(「機械人間オルタ」は今までのアンドロイドと違って人と対話したりできる機能はなくて、ある種でたらめな(その中には構造化された複雑さがあるけど)動きをするように作られているけど、それを見た人は不思議と「生きている感じ」を味わうという)。

 

 他にも「生命性は『そのもの』が持つんじゃなくて『観察する人』によって決まるんじゃないか」や「インターネットは心を持つんじゃないか」といった魅力的(科学的検証性に関しては欠陥があるけど)な仮説が出てくる。

 この本全体を通して、新しいものの見方・考え方を得られた気がする。自分が特に心に残ったのは次の部分。

(人間は身体性の限界ゆえに知能が発達した、という議論の後)でも、この次に来るのは分散した身体性や分散した自我であろうと思っていて、それがどういう知能を生むのかに興味があります。それはわれわれが今思っている、単なる「意識」じゃないはずです。(中略)そういう四次元的な、時間概念を超えた意識になるのではないか。そういう意識とはどのようなものなろうと思うわけです。(中略)人がどんどん無機物に近づいていって死を心配しなくて済むようになれば、ものすごく長い時間スパンで生きられるようになり、身体的にも時間概念を超えられるようになるはずです。

これは(恐れ多いけれど)自分の問題意識というか目標でもあって、人間そのもののあり方が変わるような進化をした後、自分たちはどういう風に感じて生きていくのかを知りたいというのがある。

そしてそれが実現可能な時代に生きているんだと思う。