IITは複雑系科学なのか?
今日Tononiのこの動画を見た。
そしてこんなツイートをした。
IIT、「全体は部分の総和を超える」っていう複雑系の考えの極北かもしれない
— いっちー (@tripdancer0916) 2018年5月26日
IITは「統合された情報を持つシステムは意識を持つ」という公理(仮説)から出発した理論だが、その統合について、こんな感じの説明がされていた。
「二つの系AとBがあるとして、その2つが相互作用をしていなくて独立に振舞っているとしたら系A-Bがあるとは言えず、『系Aと系Bがある』ということになるはず。多数の要素からなる系で情報が統合されている状態というのはその系が独立な要素の和に分解できない時をいう」
でこれを聞いて思い浮かんだのが複雑系科学のスローガン「全体は部分の総和を超える」で、IITはこのスローガンを情報科学的な観点から定式化した上で、意識(≒主観的経験)の問題に適応したものと考えられるんじゃないかと思ったわけだ。
実際TononiのラボでポスドクをしていたErik Hoelはバチバチに「複雑系」をやってるという印象がある(Can the macro beat the micro? Integrated information across spatiotemporal scales | Neuroscience of Consciousness | Oxford Academic )
ただ若干割り切れないところもあって、それはIITを適用するためには系のミクロな情報を(系全体に渡って)知る必要があるというところだ(だから現実的にはΦは正確には求められない)。
今までの複雑系の考えはカオスにしてもスケールフリー性の話にしても「ミクロな情報は多すぎて手に負えないけど、マクロなところを見ると興味深い性質が普遍的に現れる」みたいなところを目標にしてきた感がある。だから若干そこの考え方は違うのかな、とも思ったりした。
でも最近はΦを近似的に計算する方法が考えられたり、ネットワークをマクロに見て定性的な性質の違いを調べられたりとかもしているから複雑系寄りの考えにシフトしてきているのかもしれない。一方で主観的な経験の多様性を考えるとcoarse grainingな理論がどこまで通用するのかはちょっと分からない、っていうのもある。
いずれにしてもIITはまだ発展途上だし、仮に意識の謎を解き明かせなかったとしても新しい複雑系科学の扉を開いたということでエポックメイキングな理論なんじゃないかって期待してる。